Low cost, Low price & High return

音楽に対してはまじめに、それ以外はゆるゆるとへんなことを。月に何度か、不定期に書き綴ります。

ポップしなないでの新譜「CDはもう売れない」がいいので聴いてほしい。

 

タイトルでもう言いたいことはぜんぶ言い切ってしまった。

セカイ系おしゃべりポップバンドを自称する「ポップしなないで」のセカンドミニアルバム「CDはもう売れない」が2018年10月24日に発売となった。いや、これがいいのだ。ほんとにいいミニなんですよ。

「とりあえず買って聞いてくれ。」とTwitterで1日3回くらいツイートしたいところだけど、それじゃああまりにもあまりにもだし、たぶんみんなにミュートされてしまいそうだ。なので、音楽に関してはぜんぜん素人のわたしだけども、そんなわたしの視点で見た、このミニのよさをこの場で書いていきたいとおもう。もしよかったらお付き合いください。

 

「CDはもう売れない」って、めちゃめちゃ攻めたタイトルじゃないか?

 

CDに言及する曲ってがいままでなかったわけじゃない。

たとえばわたしのすきなバンドだと、アジカンの「マジックディスク」なんかがあるわけだけど、それは「CDはまだ死なねぇ」ってメッセージなわけですよ。まぁ、そりゃそうですよね。でもさ、「売れない」って自分で言っちゃうのすごくない?

正直、いまはもうみんなiTunesAmazonでデータで買ったり、さらにはサブスクリプションで音楽聴いてたりするわけじゃないですか。音楽はデータとして、スマホで聴いているってかたのほうがおおいんじゃない?

わたしはCD派ではあるけど、じゃあCDを出すのってどういうときって、だいたい最初にパソコンにインストールする一度だけ。正直、歌詞カードを含めたアートワークのためにCDを買っているところがある。

CDが売れない売れないって話はわたしのせまい観測範囲ですらかなり見るし、業界もなんとかがんばろうとしているけど、そんななかで曲を作っているアーティストが堂々と「CDはもう売れない」って断言しちゃうの、かなり珍しいとおもう。って言うより、ふつう言っちゃダメだろそんなこと!!

私の知ってる世界なんてほんとうに狭い範囲でしかないので、もしほかにもこういうバンドが言ってるよ!ってのを知っているかたがいたら、ぜひ教えてやってください。

 

リード曲「言うとおり、神さま」がすごい。

 

 

このミニアルバムのリード曲である「言う通り、神さま」という曲。

アルバムのジャケットにも描かれている、女の子と恐竜のようなかたちをした「神さま」が登場する、まさにこのミニを象徴するような曲。

 

はじめましてこんにちは仏頂面の彼女が
ハスキーな祈りを僕らに叩きつけた
隠し持ったナイフも おもちゃみたいに思えた
切りつける言葉が月まで届きそうだ

 初っ端からこの歌詞。初めてこのミニを手に取ったリスナーの方々に、豪速球の「はじめまして」だ。仏頂面で、祈りを叩きつけ、言葉で切りつけてくる上にナイフを隠し持っている。ポップで明るい曲に乗せて、いきなりとんでもない出会いかたをしてしまった。
この歌詞はいったい誰の視点で書かれているのだろう。

わたしの推測にはなるが、これはきっと「神さま」なのだろうとおもう。こまったときの神頼み。祈りを捧げるような相手は、神さましかいないだろう。だって、友達や恋人に祈りを捧げることなんかないじゃないか。
ポしなを愛するみなさんはきっと「いや、待って。じゃあ『僕ら』ってなんだよ」っておもうだろうけど、ちょっとそのまま聞いてください。おねがいします。

でも、この歌詞が神さま視点で書かれているならば大問題だ。この少女は神さまにかなりのうらみを抱えているように見える。

 

だが、この曲のサビはこのような歌詞になっている。

神さまの言うとおり サイコロ握って
順番に順番に 1から6まで
明日は最終回 ありがと、ごめんね
いつかまたまたまたいつか

急な彼女視点。そして、神さまに感謝と贖罪の念を込めたうえで、またいつか会いたいと願っている。これはいったいどういうことなんだ。

この感情は2番を聴くと明らかになる。

 

ステージの上なら全部出来るんだ
わたしにしか見えない 光に包まれたら
こっちを見上げる一人一人の顔はきっと
少し昔みたいに敵ではないよね

1番で「孤独の果てにたどり着いた今を守っていた」彼女は、どうやらうまくいったようだ。少し昔は、みんなが敵だったのだろうか。ステージの上で、すべてを手に入れた彼女は、しかし

神さま独りぼっち あいつはイカサマ
偽物蔓延って 逃げだして振り返って
一昨日は回鍋肉 お鍋を焦がした
わたしは 悔しくなんてない

うまくいった、とおもったところで、神さまに裏切られてしまった。ついにイカサマ呼ばわりだ。悔しくなんてない、と強がる彼女。

この曲は、うまくいったとおもったその瞬間に、失敗してしまった彼女の曲なのか。

 

では、冒頭の神さまがなぜ「僕ら」なのか、そしてなぜ途中で視点が変わったのか、という問いについて、答えてみたいとおもう。
手前味噌ではあるが、かつてわたしはnoteでこのようなエントリを書いたことがある。

まったくもって関係のない自分語りをいきなり見せられて、困惑するみなさんの顔が目に浮かぶが、かつてわたしは「神さまになりたいひと」だった。
もしかしたら、この気持ちに共感してくださるかたもいるかもしれない。傷付く他人を救いたい、ひとのためにやさしくありたい、そんな心を持ったひとのことを「神さま」と呼んでも差し支えないだろう。

この曲に出てくるひとはみんな神さまなのだ。リスナーも、彼女も。誰かにとっての。
だから、恨むし、恨まれるし、感謝も贖罪もする。だから、どうかまた、いつかどこかで会いたいと願うのだ。

不完全なできそこないの「神さま」を、そっとやさしく包む曲。だからこそ、こんなにすっと胸に入ってくるのではないだろうか、とわたしはおもう。

 

一方でMVでは、歌詞にははっきりと描かれなかった「救い」が描写されている。

「下を見て吸い込まれ、踏み出してしまった」彼女は神さまに救われ、最後には笑顔を見せる。失敗したものごとの象徴であろう、壊れていったものも元通りの姿になってゆく。落として割れたCDを除いて。なるほどつまり「CDはもう売れない」、ってことだよね。まさしくこのミニアルバムを象徴する作品に仕上がっているとおもう。

 

余談だが、ほぼ同時期の10月31日にリリースされたTWEEDEESというバンドの3rdアルバム「DELICIOUS.」にも「間違いだらけの神様」というおなじテーマの名曲が入っているので、もしよかったらこちらも聴いていただきたい。曲調はぜんぜんちがうけど、ほんといいんですよ。おすすめ。

 

ほかの収録曲の「選曲」がすごい。

 

YouTubeでついに41万再生を越えた(記事執筆時点)モンスターバズ曲「魔法使いのマキちゃん」については今年の2月にこのような記事を書いているので、よかったら見ていただきたい。


そして、ポップでキャッチーな「砂漠の惑星」、
唯一かめがいさんが作曲している「bedroom sound system」、
DIYクソアニメの主題歌になっている「フルーツサンドとポテサラ」の全5曲。

今作の楽曲はおしゃべりがおおめ。ポップな曲がふんだんに詰まった前作「Faster,POP! Kill! Kill!」とはちょっと雰囲気がちがう。ポップで踊れる曲って「砂漠の惑星」くらいじゃないかしら。

 

で、じゃあ曲がないのかって言えばちがうのだ。
ライブ会場限定シングルの「ヨルハアソバナイト」とか

 

未音源化(別アレンジでc/w化している)ながらMVまで作ってある「ヤンキーラブ」

 

といった曲がある。ふつうだったら、シングル曲やわざわざMVを作った曲をアルバムから外すなんてことはかんがえられない。

 

さらに、前作同様のポップな曲なら、以前からライブで何度も演奏されている定番曲の「夜はこれから」や

 

わたしが個人的にもっともすきな「大正カゲキロマン」

 

といった曲があるにもかかわらず、あえてこのちょっとせつない、現実味のある、それでいておしゃべりな曲たちを用意してきたわけだ。確信犯。

ならば、この選曲にはかならず意味がある。ポップで、ファンタジックで物語的で、たのしいミニアルバムだった前作とはちがう、そんな意図が。

ほかの曲はぜひCDで聴いてほしいので、ここで紹介はしないけれども。

 

で、「CDはもう売れない」のか。

 

このアルバムの収録曲の歌詞を見ていくと、前作よりも身近な曲がおおいような気がする。決して絵本の中ではなくて、手の届く範囲の、リスナーが自分のことのようにおもえる曲が。
唯一、前作の趣を色濃く残した「砂漠の惑星」を挟んで、現実感でのサンドイッチ。

そして、収録時間は驚異の18分18秒。短いのだ。
一般的にはポップスのアルバムってだいたい45分~60分、ミニアルバムだとだいたいその半分で20分~30分くらいではないだろうか。
そう、正直言ってこの18分という数字はちょっと物足りない。もっと聴きたい。あと1曲増やしていたら、かなりの満足度になったのではないかとおもう。だが、わたしはこれが彼らの作戦なのではないかと推測する。

挑戦的かつ自虐的なタイトルで人目を引き、このミニアルバムの世界観を確立した曲で初っ端からブン殴り、バズ曲で畳みかけたとおもったら、前作の香りを残したポップ。ラスト2曲で現実にそっと寄り添う。聴き終わったらわたしたちは、ふとこう思うのだ。

「物足りないな、もうちょっと聴きたいのに。」

 

そう。こいつら、CDを売る気満々なのだ。タイトルに騙されてはいけない。
ただ1曲1曲を聴くだけではわからない、アルバムを通しての作り手の想いが、たしかに伝わってくるミニアルバムだ。こんなものを作るような連中が、本気で「CDはもう売れない」なんて、かんがえているわけがない。

前作の「Faster,POP! Kill! Kill!」と合わせて37分。それでもやや短いが、現実とファンタジー、おしゃべりとポップなメロディー、補完し合うかのような2枚を合わせて聴くと、これはおもった以上に「食べごたえ」がある。

「マキちゃん」で初めて彼らを知ったひとに、もっともっと興味を持ってもらうための、もっと聴きたいと思わせるためのミニアルバム。シニカルなタイトルは、そんな世の中でも伝わるアルバムを作る、という決意表明のようにも感じられる。

 

ちなみに彼らは、CD発売前最後のライブで、新曲2曲同時披露、なんてこともやっている。このCDに入っている曲をお披露目するのではなく、まったくはじめてやる新曲を2曲も演奏したのだ。
まったくもって意味のわからない、今までの常識ではかんがえられないタイミングでの新曲披露。
さらには今年のクリスマスイブ、12月24日には初のワンマンライブを開催するという。なんでこのタイミングで!?こんなの友達めちゃめちゃ誘いづらくないか。まじかよ。

 

どこまで計算か、どこまで本音なのか。まったくわからないポップしなないでの明日はどっちだ。
ただひとつ言えるのは、わたしたちはその行く末からもう、目が離せなくなってしまっている、ということだ。

 

アフィリンクの張りかたがわからないので、タワレコオンラインです。