Low cost, Low price & High return

音楽に対してはまじめに、それ以外はゆるゆるとへんなことを。月に何度か、不定期に書き綴ります。

あれから2年、渋谷コンピの夏

 

渋谷系、という音楽ジャンルがある。

正確にはジャンルじゃない、というかたもいらっしゃるかもしれないし、この言葉にはみなさまなりの想いがあるだろうことは承知している。
とりあえず、ここではおれなりの紹介をさせていただきたい。

 

渋谷系とは、おしゃれな音楽のことである。

 

 

 

すまん、ものを投げないでいただきたい。気持ちはわかる。

 

渋谷系。一般的にはフリッパーズギターオリジナルラブピチカートファイブを元祖とする説が優勢だろうか。

ただ、「渋谷系が好き」とか言ってる割に、おれはこのへんをほとんど通っていない。後追いで、ここ数年でようやく少しずつ聴き始めた程度である。

 

あくまでも、おれがすきなのは渋谷系に影響を受けた、「ネオ渋谷系」に分類されることのおおいCymbalsというバンドであり、その作曲をほぼ一手に担う沖井礼二である。彼の現在のバンドであるTWEEDEESや、そのフォロワーであるPOLLYANNAらだ。

その程度の知識しか持ち合わせていないおれが、このシーンの音楽をにわか知識で解説するなどというのはたいへん失礼にあたる。こちらのブログこちらの特集を読んでいただいたほうが1億倍以上は役に立つ。まじめに渋谷系の知識を得たいというかたはぜひ読んでみてください。ほんとおすすめです。

 

自分の認識としては、おしゃれで叫ばないギターポップであり、過去の名曲をオマージュし、リスペクトをしたうえで、あらたな解釈を提示する音楽、というものである。

聴いている側に音楽の知識があればあるほど、共犯者的な楽しみかたができる、通好みの音楽だ。もちろん、まったく音楽の知識のないおれのようなやつが聴いてもじゅうぶん楽しめるのだが。

 

この渋谷系という音楽ジャンル、いちどはほぼ途絶えてしまったのだ。

 

終焉の時期も、定義もひとによってちがうので解釈のわかれるところであるが、なんにせよ、いちどは「表舞台から消えた」音楽である。ということに異論のあるかたは少ないのではないか。

 

 

 

だが、2016ねん、なつ。

 

未来から渋谷、渋谷から未来へ。


1990年代~2000年頃、幅広いジャンルを素地に生まれた
渋谷系は、当時の音楽シーンを賑わせJ-Popの一時代を
築きあげていました。しかし、その流行も2000年初期には
終焉を迎え、現在その名前を知る若者は減りつつあります。
そんな今、渋谷系は過去のものではなく再びブームを
巻き起こすのではないかと考え、そのきっかけとなるまでは
行かないでしょうが、一人でもこのジャンルの素晴らしさを
伝えることができればと思い、今回渋谷コンピを企画しました。


総勢35名のクリエイターが、それぞれ、色とりどりの"渋谷系"を
表現し、最大限に"渋谷系"を感じられるアルバムとなっています。
未来から渋谷、渋谷から未来へつながっていく
これからの音楽"渋谷系"を是非、体感してください。

 

2016.7.15.

このような熱のこもったメッセージとともにあらわれたのが、これからご紹介する

渋谷コンピ

である。

 

はからずも前年、沖井礼二がTWEEDEESを結成して表舞台に舞い戻り、野宮真貴が「世界は愛を求めてる。〜野宮真貴渋谷系を歌う。〜」をリリース。

この年の1月には「最新型渋谷系ポップバンド」を自称するバンド・POLLYANNAが1stミニ・アルバムをリリース。

にわかに界隈が活気づいてきたような雰囲気は、あった。ような気がする。

 

「そのブームを一過性のもので終わらせてたまるか」という、彼らの渋谷系への熱き想いがつまった、まさに「鳴り響く鐘」のようなメッセージであった。

ニコニコ動画やサウンドクラウドボーカロイドの音楽を作っている「P」や「歌い手」の方々、同人音楽即売会「M3」で活動しているひとたちがこの想いの元に集い、形となったのがこの作品だ。

 

公式のクロスフェードもあるので、こちらに張っておきましょう。

 

上のクロスフェードにDISC-1と書いてあるように、こちらは 2枚組、という設定だ。こちらの1枚目は「未来を想っていたあの頃の音楽...」というモチーフである。ジャケットデザインは中川一さん。

これがまた、渋谷系というジャンルがすきなかたにはたまらない曲ばかりとなっているのだ。

 

少しだけファンキーなレヴューをさせていただきたい。

1曲目の「In A Trance」から最高におしゃれでかっこうがいい。思わず、バスルームでひとりきり大暴れしたくなるくらいには。7曲目の「オシャレ☆DAY」まで、怒涛のように襲い掛かる音楽の波。息をつかさずに一気に聴けてしまうことだとおもう。ここまでの流れがほんとうに美しく、コンピレーションとは思えないほどだ。

8曲目の「「シブヤChannel(200X年発売)」より「ステージ2:ネコブタラウンジBGM」」は架空のゲームのBGMという設定である。

そして9曲目、「Things Sweeter Than a Sugar Cube」には「スージークリーム・チーズケーキ」というふしぎな食べものが登場する。おそらく、読者のなかにひとりはいるであろう、フランク・ザッパのファンはニヤリとするのではないだろうか。

10曲目の「90 Summer Holidays」でしっとりと、でもたしかに輝いた夏が、終わる。

 

ひとの顔のアイコンの上をさわると、次の曲に移ることができるので、さらっとでいいので聴いてみていただきたい。

 

2枚目のコンセプトは「未来へ繋がる渋谷系」である。いい意味で枠から「外れた」ような楽曲もおおい。こちらのジャケットはもなか最中さんが手掛けている。

 

1曲目の「キャラメルマキアート」から、さらにまぶしい、キラキラした物語が始まる。3曲目の「鳥になったら」まで、3曲続けて鮮やかな情景が浮かぶような女性ボーカルが続く。

4曲目の「サニーデイ」で一気に気だるげな午後のカフェが目に浮かぶようになったかと思うと、7曲目の「ライアーライアー」まではやや落ち着いた、でもちゃんと踊れる曲が用意されている。

8曲目「Draw a dream」から10曲目の「The Invisible Night」までは3曲続けてのインストだ。ああ、もうこれで終わりか、というところで。

11曲目。最後の曲である「Baby Clap」。ここにこの、ふつうなら1曲目だろう、という疾走感にあふれたさわやかなキラーチューンを持ってきた。これはできれば、ちゃんと音源で聴いていただきたいのだが、この曲を聴き終えた後に、1曲目。DISC-1の「In A Trance」をふたたび流していただきたい。ふしぎなことにこれがまたするっと聴けるのだ。

この、渋谷系の楽曲の世界を、閉じない終わりかた。それができるのが、このコンピのチカラであるとおもう。

そして僕は喋りすぎた。どうもすみません。

 

では、この楽曲たちはいかにして手に入るのか、という話である。

こちらの「渋谷コンピ特設サイト」から入っていただき、「DOWNLOAD」のところでDISC-1,2を選択。

そして、「デジタルアルバムを購入」のボタンを押せば、金額入力の画面があらわれる。こちらの音源は「投げ銭方式」である。「0」と入力すれば、もちろん無料で手に入る。熱い想いのこもったこれだけのクオリティの作品が、無料で聴くことができる。

各曲個別で購入もできるが、どうせなら21曲、すべてダウンロードしていただきたいのが正直なところだ。
決して、メジャーシーンで活躍するアーティストはない彼らが、メインストリームではないジャンルのために、精魂込めて作った曲たちだ。知名度はないかもしれない。だが、これらの楽曲には、聴くひとの心をたしかに揺さぶる、なにかがあるのだ。彼らの魂の入った音を、どうか聴いてみていただきたい。

 

この有志たちの熱い想いが呼び寄せたかのように、同年の9月に行われた、リオ五輪から東京五輪への引継ぎ式は、椎名林檎の編曲による「東京は夜の七時〜リオは朝の七時〜」が披露され、翌2017年の2月には小沢健二が19年ぶりのCDをリリース。各方面で話題となった。

そして、今年の9月には渋谷系から派生した「アキシブ系」にこだわった音楽づくりに定評のある、M3常連の人気サークル、フーリンキャットマークが満を持して初のライブを開催する。

 

たしかに小さな、でも確かな渋谷系のブームが生まれてきているように感じる。この熱は決して一過性ではない。そう信じている。

だからこそ、いま。そして僕は、この楽曲をまだ聴いていない方々に、いま一度届けたいと、強く思う。

 

Do You Believe In Magic?