Low cost, Low price & High return

音楽に対してはまじめに、それ以外はゆるゆるとへんなことを。月に何度か、不定期に書き綴ります。

沖井塾生のノートの走り書き

沖井礼二というベーシストがいる。

 

古くはCymbalsという「ポスト渋谷系」のバンドで作曲をほぼ一手に引き受け、

バンドの解散後には作曲した「NOVAうさぎのうた」でお茶の間の人気を博し、

現在はTWEEDEESというバンドでおじゃる丸の「プリン賛歌」をカバーし、

6時のEテレで数多くの子どもたちに良質のポップを聴かせている。

一般的な知名度こそ高くないが、

いまだに数多くのフォロワーを抱えるソングライターでもある。

ようするに、わかりやすく言うとなんかすげーひとだ。

 

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ほら、後光が差している。

 

個人的にこのかたがめちゃくちゃ大好きなので、

逆になんか嘘くさいなと感じさせてしまうくらい不自然に褒めたたえてしまった。

おれはひとを褒めるのがへたくそなのだ。申し訳ない。

 

そんな沖井礼二氏が主催するイベント「押忍!沖井塾」に行ってきた。

 

 

たいした音楽の知識もない男が沖井塾にちょこっとだけ顔を出してきた。

塾長の話はただのにわかには少々、いやかなり難しかったところもあるが、

ほんの少しだけレポートと感想のような何かをしてみようとおもう。

まぁ単なるノートの走り書きだとおもっていただければ幸いである。

 

www.youtube.com

 

さっそくだが、そもそもこの拙ブログのタイトル自体、

Cymbalsの曲名から取っている。

シングルでもなければ、決して代表曲とも言えない曲なのだが、

おれはこの曲が大好きなのだ。

もしもいまあなたの耳が空いているならば、

このブログの続きは▶ボタンを押してから読んでいただければ幸いである。たのむ。

 

これは君の引き出しの中の魔女を 
目覚めさせる魔法の呪文 
星一つない闇夜に 
ひとこと囁きさえすれば 
すぐに効き目が判るはず

ロウコスト・ロウプライス・ハイリターン 
胸にしまって、絶対に誰にも喋らないこと 
大物になりたいなら 
一夜にして成功したいなら 
忘れてはだめ

ロウコスト・ロウプライス・ハイリターン 
空の箱に素敵なリボン 
それに美しい言葉と"心からの"スマイル 
すなわちそれが"利口である"ということ 
すぐにお金の方からやってくる

ロウコスト・ロウプライス・ハイリターン 
ちっぽけな"誇り"なんて 
すぐ焼き捨ててしまいなさい! 
ばかばかしい誠意なんかより 
嘘は元手がかからない 
充分儲けたらいくらでも買い戻せるもの

これは君の引き出しの中の魔女を 
目覚めさせる魔法の呪文 
星一つない闇夜に 
ひとこと囁きさえすれば 
すぐに効き目が判るはず

ロウコスト・ロウプライス・ハイリターン!

 

「かわいくっていじわるな感じのバンド。ただしパンク」という

バンドコンセプトにぴったりの歌詞、音楽なのだ。

ああ、わかっている。

君はいま、「おおよそお前には似つかわしくない音楽」だとおもってる。

オーケー、それは認めよう。

沖井礼二はおしゃれである。

 

だがこのおしゃれですてきな音楽の裏には彼のバックボーンがある。

彼の通ってきた音楽的なルーツのようなものである。

幸か不幸か、おれはただ沖井礼二の曲を聴いていればただそれだけでしあわせなので、

ルーツ探しの旅に出たことはなかった。

旅に出ずとも、部屋の中でただ彼の音楽を聴いていれば満足だったのだ。

こういうところに、こういうイベントでの話の理解力のなさが現れるのである。

可愛い子には旅をさせよとはきっとこういうことだとおもう。たぶんちがう。

 

48歳になる沖井氏と、20代の若いバンドマンのセッションと、

音楽ライターの黒田隆憲氏との対談でこのイベントは行われたようだ。

ようだ、というのはおれが仕事を終えて渋谷に駆けつけた時点で

イベント開始から1時間が経っていたからである。前半戦のことは何もしらない。

それでよくレポートやら感想のようなものを書くなどと言ったものだ。

おれのその無駄な度胸だけは褒めてほしい。

 

 

 おれが到着してしばらくしてからのこと。

沖井氏の幼少時代の話から、

「(先ほど演奏した)バンプはむずかしかった」という話になった。

 

「彼らは僕と年齢が離れているんですよ。僕が通った曲を彼らは通っていないし、

彼らが通った音楽を僕は通っていない。このベースは僕のなかにはない。

だから難しい。」

 

 「今の30代の子たちはそういうところがあって、逆に20代の子のほうが

ビートルズとか、僕たちが聴いていた音楽に詳しかったりする。」

 

「この前若いバンドの子が

ビートルズ借りてきたんですよ、めっちゃいいですね!』

って言うんですよ。いや、買えよ!!って思ったんだけど(会場爆笑)」 

 

この話は坂本真綾さんの「木登りと赤いスカート」の話の流れでも。

 

「僕はYouTube以前、YouTube以後って感じてるんだけど、

それまでは色んな村があって、自分の村のことはわかっていても、

他の村のことは知らなかったわけです。

だからこの曲(木登りと赤いスカート)を知ったのは5年くらい前だったわけですけど、

アニメや声優さんに詳しいかたは20年くらい前にもう

この素晴らしい曲を知っていたわけですよね。それがとてもくやしい!」

 

この話は非常にわかりやすいなー、とおもう。

たとえばポップ村、ロック村、ゲーム村にアニメ村なんてものがたくさんあって

(もしかしたらゲーム国の任天堂村、エニックス村という分け方がいいのかもしれない)

30代以上のひとはいくつかの村をずっと歩いて回っていたのではないか。

そんななか、おれは渋谷系村の沖井商店に入り浸っていただけということなのだろう。

大多数の音楽に興味のあるひとは、沖井商店から

洋楽村のダイナー・ザ・フーに出かけていったのかもしれない。

隣の北川食堂(ROUND TABLE)の定食を食べたかたも多かったのではないか。

 

そこにYouTube街道が整備され、村と村の間の交通が飛躍的に便利になった。

今まで遠いと思われていた、渋谷系村とアイドル村もかなり行き気がしやすくなった、

ということだとおもう。

そして10代、20代のかたがたは色んな村に色んなお気に入りのお店を持ち、

洋食が食べたければあの村のどこ、洋服が買いたければどこ村のあのお店がいい、

という風に自由に行ったり来たりするようになったということだ。

 

自分の村にこもって、お店を順番に開拓していくのもいいけど、

あまりそういう時代じゃなくなってきたのだ。

自分がよく行く村の地図を書いてみるのもおもしろいかもしれない。

しかしYouTube街道とか渋谷系村ってなんだ、この違和感しか生まない言葉は。

(おれが勝手に言ってるだけです)

 

そして、「渋谷系の定義」についてのお話も。

 

「『渋谷系』ってよく言われるんだけど、

僕はこれジャンルじゃないと思うんですよね。

渋谷HMVのあの、新譜も、そのルーツになった旧譜も、ぜんぶ一緒に並べる

あのコーナー、売り場こそが渋谷系だったんじゃないかなと。

ピチカート・ファイブだとか、フリッパーズ・ギターだとか、

Cymbalsもその末席に入れていただいたりもしたけども、

どういう音楽を聴いてきてこうなったか、というものまでが。

あの頃はルーツが60年代、70年代だったけど、

今は1週回って90年代がフューチャーされてますよね。」

 

渋谷系の当事者からのこういうお話を聴けたのもうれしかったなぁ。

渋谷系のアーティストさん、渋谷系のすきなかたの作品って、

元ネタ、というか、インスパイアで曲を作ることが多くて、

たとえばM3で買ったCDとかを聴くと、

あ、沖井節!これ北川さんの好きなやつ!とか見つけて、

ついついニヤリとしてしまったりする部分がある。

そもそもタイトルやジャケットからしてニヤニヤしてしまうものも多いのだが。

 

元々の渋谷系がそういう音楽の作り方をしているわけで、

ルーツが90年代になってくると、おれにも元ネタがわかってくるようになってきて

聴いていて非常にたのしいのだ。

もしかしたら20年後にはいまのM3に出ている渋谷系ミュージックをルーツとした

あたらしい渋谷系(のような何か)が生まれているのかもしれない。

 

幼少期の話から、音楽のルーツについての話もたくさんされていた。

というか本来それがメインだったような気もするのだが、

さんざん書いてきていたように、さっぱり話がわからなかったのだ。

ビートルズとか、ザ・フーとか、まぁ数曲有名なのは数曲知っているが、

基本的におれは洋楽に対する知識がまったくない。

このあたりのお話は、

どなたかすばらしい知識をお持ちの方がまとめてくれることを願う。

そのへんに期待してこのブログに来ていただいた方にはたいへん申し訳ない。

 

それから、沖井氏の発言を2つほど紹介したい。

 

「音楽をやるなら初めからベースをやるしかないと思っていた。

ほら、ビートルズの方々は英語がお上手だから英語で歌うじゃないですか。

僕は英語わかんないから、歌いたいけど歌えなくて、

ベースラインを口ずさんでいたんですよね。」

 

「バスドラとベースを合わせるって基本を知ったのが、

ベース始めてから2年くらい経ってからなんですよね。遅ぇ!って。

でもそれくらいになるともう、自分のスタイルができてくるじゃないですか。

だから僕はもうドラムなんか聴いちゃいない(笑

今でも一切聴いてない。ボーカルは聴いてますよ。でもドラムは聴かない。」

 

おしゃれトラックメーカーの沖井礼二は、

口を開くとおもしろおしゃべりおじさんでもある。

会場をどっかんどっかん爆笑の渦に巻き込んでいた。

ビートルズは英語がお上手ってどういうことだ。

我々はみんなもれなく日本語がお上手ってことなのか。

 

ただ、こういう半分冗談のような話の中でも、沖井氏のすごさが

伝わってくるのがおもしろい。ただ笑えるだけじゃないのだ。

おれなんか耳を澄まさなきゃ(澄ましても)ベースラインなかなか聴き取れないのに。

あとドラムも聴いてあげて。ちょっとでいいから。

 

 

だいぶ長くなった。

ここまで駄文にお付き合いいただき感謝である。

 

幸いなことに、写真や動画をアップしてくれたTwitterの相互さんの

ご協力を得ることができたので、最後に紹介したいとおもう。

 

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セッションバンド(2回目)のボーカルの伶菜さん、ギターのクロサワさんは

POLLYANNA」というバンドのメンバーである。

この晴れの舞台で、クロサワさんは伶菜さんが水の飲む間、

マイクスタンドとして使われていた。

演奏のカッコよさと扱われかたの雑さのギャップが半端ない。

こちらのバンドも今後ぜったい出てくるバンドなので、

今から注目しておくのがおすすめだ!と強く推していきたい。

 

soundcloud.com

 

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ドラムはざんねんながら今年解散してしまったが、

おれの大好きな「カラスは真っ白」というバンドのメンバーだったタイヘイさん。

現在はジャズバンド「Shunské G & The Peas」のメンバーとして活躍している。

 

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このバンドも非常に素晴らしいので、聴いたことがないというかたは

ぜひ一度聴いてみていただきたい。

いやほんとまじでちょうカッコいいから。うるせぇ、だまって聴け。

 

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写真には写っていないが、キーボードは「ブルー・ペパーズ」の井上さん。

 

www.youtube.com

 

今月新しいアルバムを出したばかりだ。おれも当然買った。

むしろ今聴きながらこの記事を書いている。

この井上さんは前回のTWEEDEESトークイベントに参加していたが、

なぜか関係者席ではなく客席に座っていた。さらに言うとおれの隣の席だった。

席番号のくじ引きで当たって、賞品をもらいつつ、

「お前は関係者だろう!」と沖井氏にツッコまれていた。

 

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ちなみに、1回目はボーカルとベースの沖井氏以外全員他のかたがただったのだが、

一切見れていないのでコメントができない。

でもきっと素晴らしかったはずだ。見たかった。

見れなかったのがざんねんでならない。

 

写真提供はゆうさん。ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 カバーももちろん素晴らしいが、今回のハイライトはこれだろう。

Cymbalsの名曲「Highway Star,Speed Star」。

 

www.youtube.com

 

「誰一人として車の免許を持っていないシンバルズが放つ

至高のドライヴ・ミュージック!(一般道を走る際には使用をひかえてください)」

 

この選曲はボーカル伶菜さんの希望だったそうだ。

「二度とこの曲のベースは弾かないと思っていたんだけど」と沖井氏。

 

10年前、とっくに解散した後のCymbalsを知り、そこから沖井礼二にハマり

現在進行形でTWEEDEESを聴いているおれにとって、

ライブでCymbalsの曲を聴く、というのは決して叶わないはずの悲願だった。

 

この夜、その夢が叶ったのだ。

 

 

 

ただのカバーじゃない。

ベースはオリジナルメンバーだ。

その他のメンバーも、作曲者が認めた才能あふれる若いバンドマンだ。

最高だった。今までの想いが、愛が、すべてが爆発して目頭が熱くなった。

この曲がもしあと30秒長かったら、あの場で号泣していたとおもう。

 

TWEEDEESはすばらしいバンドである。

沖井礼二の演奏技術には磨きがかかり、よりロックな迫力の音色に進化を遂げた。

ボーカルの清浦夏美の歌声は素晴らしく、彼女の詞も心に沁みる。

 

ただ、Cymbalsが伝説の、偉大なるバンドゆえに、

それと比べてああだ、こうだという意見もまれに目にする。

偉大なるものの後に現れたものの宿命として、

比較され続けるのは仕方ないことなのかもしれない。

 

だが、いまこの曲を聴くことができたことで、

逆によりいっそう、TWEEDEESにも寄り添えるような気がしたのだ。

この夜、おれのCymbalsへの想いは成仏できた、と言ってもいい。

 

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清浦夏美は以前ライブでこう言った。

「みんなCymbals好きでしょ? 私も好きだよ。

でもね、私がCymbalsのこと忘れさせてあげるから!

Cymbalsよりもほかのバンドよりも、

TWEEDEESをもっともっといいバンドにしていくから!」 

 

そうだ。君に音楽を。

 

 

 

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ちなみに、塾長要素はあまりなかった。